概要
依頼者は60代の男性。余命が短いことを悟った兄が、依頼者と姉(相手方)の2名で全財産を均等に分けることを求める内容の遺言書を作成した。相手方は、兄の見舞いに行った際に、入院費用等の支払いの目的で、兄から銀行通帳やキャッシュカード、自宅にあった現金の管理を頼まれたのを奇貨として、兄の死亡する1か月ほど前から兄の死後1か月ほどの期間において、キャッシュカードを用いて、毎回50万円ずつ引き出したほか、兄の自宅から現金を持ち出し、自身及び自身の親族名義の預金口座に入金してしまった。
兄の預金額があまりに少額なことを訝しんだ依頼者が、相手方に対し、兄の預金と現金の行方を尋ねても、依頼者は、兄からもらったと述べるだけで、これを依頼者へ変換しようとしなかった。そこで、依頼者は、弁護士に依頼した。
依頼者は、当初、相手方が兄の承諾なく預金を引き出し、現金を持ち出したことは違法であって、依頼者の計算上の相続分相当額を相手方が保持し続けることは不当利得であるとして、相手方に対し、不当利得に基づく返還請求を地方裁判所へ提訴したところ、相手方は、兄の承諾の元、贈与を受けただけだと抗弁をした。
相手方が、依頼者が主張した請求額を受領したことを認めたことから、仮にこれが贈与であるとしても、相続上特別受益であることが明らかであるため、相手方が贈与を受けたことを認める内容で民事訴訟を和解し、その上で、家庭裁判所において、これを相手方の特別受益として、遺産分割調停を申し立てた。
争点
使い込みをした相続人に対する返還請求の手法
結論
遺産分割調停において、依頼者の相続分相当額の返還を相手方に認めさせる内容の調停が成立した。
最初に成立させた民事訴訟において、兄の遺産の範囲と特別受益を相手方に認めさせたため、これを踏まえて調整した内容で遺産分割協議を成立させました。
一言
民事訴訟を提起した時点で、相手方の抗弁の内容によっては、不当利得として地方裁判所で解決すべきなのか、それとも相手方の発言を利用して、特別受益として家庭裁判所で解決すべきなのか、臨機応変に対応することを考えていました。結果、相手方は、予想どおり、自身の特別受益を自認する内容の主張をしたため、その後の展開は非常に楽でした。
このとおり、私は、相手方の主張を想定し、その場合の結果についてのあらゆる可能性を予め検討した上で、依頼者にとって有利な解決を実現することができるよう、常に意識しております。